これは森に住んでいるネコのパックから聞いた話。
みずうみの北で爺さんがキャンプを張っていた。
焚き火でコーヒーを暖めているおなじみの情景だ。
「こんにちは、なのにゃ」
「おう」
「パックなのにゃ」
「知っとるよ、ネコさん。旅をやめたタビネコだってな」
「うにゃー、あんまり、バカにしないでにゃあ」
「ああ悪ィ、悪ィ。まあ、森に入っている限りは旅をしているようなもんだからな。まあ気にすんな」
「お爺さんは…」
「おう、タビビトだよ。すぐいなくなるゼ」
「いいにゃあ」
「おまえさん、なんで旅をやめたんだい」
「べつにやめたわけじゃないにゃ。ただ…」
「ただ?」
「ちょっと、重しがついたにゃ」
「ほっ、それがやめるっちゅうことサね」
「ふにゃ〜あ」
爺さんは魚肉ソーセージを枝にさしてあぶっている。パックの鼻がヒクヒクしている。
「ほれ食え」とさしだされた。
「いいのにゃ?」
「あたりまえサ」
「わ〜あんがとなのにゃ……ふひゃふひゃ」
「おー、ネコジタなんだねえ」
「でも、おいしいのにゃ」
「お、そろそろ行くときがやってきたゼ」
「ふふにゃ?」ソーセージをもぐもぐしたまま返事。
爺さんはたばこに火をつけた。
パックもそうした。
「パック…タビネコが旅をやめるはずないのにゃ」
「そだな」
「たばこは、ちょっと旅のかわりになるのにゃ」
「ああ、そだな」
ふう。爺さんは最後の煙を吐き出した。
そして煙とともに薄れていく。
「最後の旅だゼ。あばヨ」
「サヨナラ。アリガトなのにゃ」
爺さんは煙になって消えた。