旅が向こうからやってきた
これはけむりビルに住んでいる占い師の話。
知り合ってずいぶんたってから、彼女の相棒の黒ネコから聞いた話を再構築してみた。
少年はくすんでいた。
月曜日には、旅に出たくなるのだから。
学校の裏庭。校舎にもたれてへたりこんでいた。
目の前に自転車置き場がある。
自転車が「旅」という字に見える。
「旅が並んでる」
くすくす笑った。
たばこを一本抜き取った。
ふっと煙を吐きだす。
ぽかっ。
「痛てっ」
「こらっクジュ!学校で喫うんやない」
○○子だった(のちの闇子)。
「おもしろいことのかわりさ」
「?」
また一服。
ぽかっ。
目の前に裏門がある。
道がずっと、延びている。
「踏みだしたくなる道や」
「なんで?毎日通ってるやんか」
「同じとこにしか行かれへん道?」
「決まってるわ」
「そうやないかもしれへんやん?」
むこうから自転車がやってきた。
爺さんが乗っている。
チリン、チリン。年寄りは、ベルを鳴らすのが好きみたいだ。
「あー。旅に乗ってるー」
「なんのこと?」
「ええなー」
爺さんは、裏門の前で停まった。
こっちをみている。
ふん、と鼻を鳴らした。
なにか、つぶやいている。
「お経?やれやれ爺さん、もうすぐ唱えてもらえるんやろに」
「あたしたち、お化けじゃないわよ〜」
一瞬、視界が白くなって見えなくなった。
爺さんはいなくなっていた。
「?」
「?」
クジュはネコになった。
「えっ」
自分の姿をながめる。
「おやー。学生服やったからかいな。クロネコなのは」
「それだけかい…」
「行こう」そう闇子が言った。
「えっ、どこに?」
「こうなったら、行かなしゃあないやろ。爺さん、さがさんとね。魔法解いてもらわんと」
「おー?旅が向こうからやってきたんやなあ」