物言えぬ人々の集う城で、それぞれの物語がタロットの札を並べることにより、つづられる。
偶然だけど、ことばをうしなうというシチュエーションのお話が重なった。ラルフ・イーザウの登場人物はむりやりことばを取り戻そうと奮闘するが、カルヴィーノの人物たちは受け入れてしまい、タロットの魔術を見せてくれる。べつに、だからどーだというわけでもないが。
訳者が解説でカルヴィーノに「軽み」があり、そのせいで作品も軽くとらえられる向きもあったと書いていた。たしかにそれはあるかな。でも、そこがいいんだけどねえ。いわゆる「純文学」とかいうものをほとんど読まなくなったぼくにして、いまだ読みつづけていられるのは、だからこそなのだろうし。
宿命の交わる城(河出文庫) | |
I.カルヴィーノ著・河島英昭訳 出版社 河出書房新社 発売日 2004.01 価格 ¥ 945(¥ 900) ISBN 4309462383 bk1で詳しく見る |
《この袋小路を脱出する唯一の方法は旅だ。》(p.90)
《そのとき人はどこへでも自由に行けるようでありながら、どこへ行っても景色はつねに同じなのだ。》(p.91)
《なぜなら、一枚のカードは語る事柄よりも隠す事柄のほうが多かったから。》(p.111)
《秘密を隠すのに未完成の小説ほど恰好な場所はない》(p.142)
《隠者の真価は、遠く俗界を離れて棲むことにあるのではなく、ほんの少し離れただけで、ときには視野から町並みを失うことさえなく、忘我の境地に入りうる点にこそあるのだ。》(p.167)
《この男は《愚者》を職業として、ここで死んだ。》(p.186)