よはくのてちょう

手帖の余白に書くようなことを

宿命の交わる城|イタロ・カルヴィーノ/河島英昭・訳/鏡リュウジ・文庫版解説|河出書房新社・河出文庫|900円|226頁|刊2004年01月|了2005年02月05日|幻小|

 物言えぬ人々の集う城で、それぞれの物語がタロットの札を並べることにより、つづられる。
 偶然だけど、ことばをうしなうというシチュエーションのお話が重なった。ラルフ・イーザウの登場人物はむりやりことばを取り戻そうと奮闘するが、カルヴィーノの人物たちは受け入れてしまい、タロットの魔術を見せてくれる。べつに、だからどーだというわけでもないが。

 訳者が解説でカルヴィーノに「軽み」があり、そのせいで作品も軽くとらえられる向きもあったと書いていた。たしかにそれはあるかな。でも、そこがいいんだけどねえ。いわゆる「純文学」とかいうものをほとんど読まなくなったぼくにして、いまだ読みつづけていられるのは、だからこそなのだろうし。

宿命の交わる城(河出文庫)
I.カルヴィーノ著・河島英昭訳

出版社 河出書房新社
発売日 2004.01
価格  ¥ 945(¥ 900)
ISBN  4309462383

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《この袋小路を脱出する唯一の方法は旅だ。》(p.90)

《そのとき人はどこへでも自由に行けるようでありながら、どこへ行っても景色はつねに同じなのだ。》(p.91)

《なぜなら、一枚のカードは語る事柄よりも隠す事柄のほうが多かったから。》(p.111)

《秘密を隠すのに未完成の小説ほど恰好な場所はない》(p.142)

《隠者の真価は、遠く俗界を離れて棲むことにあるのではなく、ほんの少し離れただけで、ときには視野から町並みを失うことさえなく、忘我の境地に入りうる点にこそあるのだ。》(p.167)

《この男は《愚者》を職業として、ここで死んだ。》(p.186)