よはくのてちょう

手帖の余白に書くようなことを

大江戸妖怪かわ版(1)

『大江戸妖怪かわら版(1)異界から落ち来る者あり(上・下)』香月日輪…理論社(2006年・1000円)

  • らんまんの花はめでたき大江戸の妖怪どもが小粋に暮らす

「大江戸」はぼくらの知っている江戸ではなく、妖怪たちが住まう土地。そこにいる唯一の「人間」である雀と呼ばれる少年はかわら版屋で働いてなじんでいる。こんな世界で起こるいろいろな楽しい事件が描かれる。
「江戸」の雰囲気はかなり出ていて、ついここで暮らしていきたくなります。雰囲気を形作っているのはほぼ、登場人物たちの「おそれ入谷の鬼子母神」とか「あたり前田のクラッカー」ふうの調子いいセリフだと思います。
最初はなんだか他愛ないなあ、と思っていたのですが、読んでいるうちにだんだん、ずっとこの世界と付き合っていたいなあ、と思うようになりました。

評価「○」。
オンライン書店ビーケーワン:異界から落ち来る者あり 上

オンライン書店ビーケーワン:異界から落ち来る者あり 下

大江戸に関する簡単なリストを下に置きます。
【炎蛇】怪しの火による火事のことのようだ。水だけでは消えない。
【うさ屋】雀御用達の定食屋。たまごかけご飯はおいしそうです。
【王春座】大江戸三座のひとつ。演目としては尻がこそばゆくなるようなラブロマンスが得意。
【大江戸】妖怪たちが気楽に暮らしている都市。人間の世界で言えば江戸時代の雰囲気。
【大江戸流行通信】ライバル会社の出版物だが、江戸で暮らすための必須情報誌。
【大河屋】蘭秋のパトロンというのではないが重要なファン。谷町って感じでしょうか。
【大首】かわら版屋を営んでいる。しぶちんで、働いている連中は文句たらたら。
【お小枝/おさえ】人間界から落ちてきた少女。箱入り娘で、ほとんど家から出たことがなかったらしい。彼女が人間界に帰るのかどうかが上巻のメインストーリー。
【お泉】松葉茶屋の看板娘。鬼火の旦那に気があるらしい。
【鬼火】大江戸に落ちてきた雀を拾った魔人。いつもグラサンをかけている。それはどうやら強すぎる魔力を抑えるためのようだ。もののわかった渋い男。
【怨念もの】怪談のことらしい。妖怪たちも怨念は怖いらしい。
【キュー太】大首のかわら版屋の腕のいい絵師。のっぺらぼうだが、雀がいたずらで顔を書いたらしゃべれるようになった(言葉を書いた紙を口から吐き出せるようになった)。
【桜丸】雀の友人で魔人。「風の桜丸」の異名を持ち、空を飛べる。
【末蔵】腕のいい刷り師。大蜘蛛。留吉と兄弟。
【雀】大首のかわら版屋で記者をしている少年。どうやら人間の世界の、「現代」から大江戸に落ちてきたふうだ。
【留吉】腕のいい彫り師。大蜘蛛。末蔵と兄弟。
【美形】人々が多様な姿をしている「大江戸」では美の基準は姿形というよりはそのものが発する「波動」のようなものらしい。要するに「美しいオーラ」を出しているものという感じか。
【百雷】八丁堀の同心。狼男でカッコイイらしい。魔人。
【日吉座】大江戸三座のひとつ。これといって特徴がなく、三座の中では見劣りがしていたが、もともと俳優と脚本の質は良かったが蘭秋を入れてから王春座、焔座のいいとこを取り入れることができるようになり、今では一番人気。
【深川】昼は派手な若者の町。夜は粋な通人の町。
【ポー】大首のかわら版屋で文芸担当の猫又。ハイカラだが、外国出身?
【焔座】大江戸三座のひとつ。演目は荒事が得意。アクション系でスカッしたいならここ。でもカップル向きではない。
【魔人】魔法使いのようなものらしい。形は人型が多く、大きな力を持っており、この世界では一目置かれる存在。特徴的な入れ墨を持っている。
【蘭秋】売れっ子女優。お狐さま(白狐)で由緒正しい伏見の一族の出らしいが本人は魔力をほとんど持っていない。なぜか百雷のことが気に入っているらしい。
【李角】日吉座の売れっ子役者。雀の目からはいかつい感じだが美形らしい。