よはくのてちょう

手帖の余白に書くようなことを

「ギリシア神話小事典」バーナード・エヴスリン

神々や英雄たちが息づきはじめる。項目数は多くない小さな事典なのに知りたいことはだいたいわかってしまう、それも生き生きと。残念ながら出版社自体がなくなりました。古書店で発見したら即買いです。


◆ 神話が 自己主張をはじめる ◆

さて
名人が語り
神話は
自己主張をはじめる

小さな書物に
ただ羅列された名は
いつか
生きた人のかたちをとった

身近な記述
あるいは詩
源泉のドラマ
喜びと哀しみ

あなたが出会った
あの日の英雄
失われたものは
美へと化す

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これは、読んで楽しい事典です。
簡単な記述なのにふくよかな物語性。
エヴスリンはうまいです。
物語るのがとても上手な人なのでしょう。

この小型の事典を読むと、それまで、名前とエピソードだけだったキャラクタに命が吹き込まれます。
ふつう、事典を読んでそんな体験をすることはめったにありませんが、なまじのギリシア神話の本より生き生きと描かれているのです。
神話が息づいてくるのです。

ただ、前もって神話の概略くらいは知っておいた方がよいでしょう。それにはブルフィンチの「ギリシャローマ神話」(岩波文庫)あたりを読んどくのがよさそうです。

文庫でお手軽、分厚くもなく、行間も狭いわけでもなく、とても読みやすい。
項目数も多くはないのに気になる事項はだいたい載っています。
情報量じたいはさほど多くもないのに、調べたいことはだいたいわかる、絶妙の項目選択がなされています。

地味なテーマ、かつ盛衰の激しい文庫本の中で、ずーと出版しつづけられていたのですから、ぼくと同様、お気に入りの人も多かったのでしょう。
どこかで宮崎駿さんの愛読書とも聞き共感を覚えたことがあります。ナウシカという名前はギリシア神話の登場人物からでしょうが、そうするとたぶん、この本を読んで決めたのかも。この本以外では、ナウシカはわりと地味っぽい扱いですから。
ちなみに、百科事典系でナウシカという項目があるのを見つけられたのは、今のところ「マイペディア」という一巻本の百科事典だけです。どーでもいいですけど。

・・・社会思想社がなくなったので、手に入らなくなりました。
見つけたら買っておいて損はないです。ホンマ、ぜひ。

最近(2006年)、原書房から『ギリシャ神話物語事典』として図版多数挿入の上単行本として出版されました。中身はいっしょのようです。
サイズが大きくなったのは残念ですが、内容的にはますます理想に近づきました。
ということで、もったいないなとは思いつつ買ってしまいました。

現代教養文庫から出ていた「ギリシア神話小事典」とほぼ同様の中身です。
そちらは座右の書です。

この原書房版では図版等が多く入りより理想に近づきました。
ただしサイズが大きくなって手軽さがなくなったのは残念ですが。

ともあれ、もったいないなとは思いつつ買ってしまいました。