よはくのてちょう

手帖の余白に書くようなことを

2005年に読んだ本のベスト10冊

  1. ガレッティ先生失言録|池内紀・訳|創土社|1500円|230頁|刊1980年07月 これは楽しい。この本は宝物になりました。読んでると、世の中どーでもよくなってくる。18世紀独、学生皆が待ちかまえていたガレッティ教授のたのしい失言の数々。どこぞの政治家のように顔をしかめられないのは人徳?ただのうっかり屋さんなのか、失言のフリして意識的に言ってるイヤなオヤジなのか、ある意味詩のようですらある。西洋の歴史や地理にくわしくないのでどこが失言なのかさっぱりわからんのもあります(わかるようになるまで調べたら少し知識も増えます)が、だいたいにおいてぷぷっとなれます。死んだはずの人がその後いろいろやってたり、誰も見たことがない謎の必読書とか埋葬されていないのに土の中にいる死者とか。現在Uブックス『象は世界最大の昆虫である』として出ています。書中の迷言のひとつですが、うまい題名をつけたものです。
  2. 家守綺譚|梨木香歩|新潮社|1400円|158頁|刊2004年01月 良いです。死んだ友人の実家で家守をしているとその友人は掛け軸から出てくるしサルスベリには懸想され龍も生まれる。不思議をそのまま受け入れてしまう男の穏やかな日々。植物の名が題になった掌編28の連作。図書館で借りてきた本だけど文庫が出たら買おうかな。
  3. 犬は勘定に入れませんコニー・ウィリス大森望・訳|早川書房|2940円|542頁|刊2004年04月 めちゃくちゃ楽しいです。ヴィクトリア朝英国に静養に行った史学生の双肩に世界の命運が?SFでミステリでラブコメ
  4. 東山魁夷小画集 風景との巡り会い|東山魁夷新潮文庫|600円|189頁|刊1984年07月 この画家のもつとも好きな絵たちが小さな巻に収まつてゐる。あるひはどこにでもある風景なのだらうが澄みきつた目にはかう見へる。
  5. ぬしさまへ|畠中恵|新潮社|1300円|250頁|刊2003年05月 あいかわらず楽しくてちびちび惜しみながら読みました。しんみりかなしいエピソードも。
  6. ロブスター岩礁の燈台|ジェイムス・クリュス/森川弘子訳 第二次大戦中のドイツ。その燈台ではお爺さんやカモメや水の精たちが日々お話を物語りあいながら暮らしている。どことなくほんわかとうれしくなるようなお話たち。おだやかなよろこびを共有できます。《「わたしたちのような、世界に対して何の欲ももっていない老人は、世界に対して何も与えることができないのです」》(p.37)《「その物語が本当にあったかどうかは、まったくどうでも良いことなんだよ。物語の場合、大事なのはそれが本当であるかどうかではなく美しいかどうかなんだから」》(p.41)《だが、良い人間の数はやはり少ないんだ。》(p.74)《雲は特定の人としか話をしないのだろうか。それとも、カモメも雲も、ハウケ・ジーヴァースとしか話をしないのだろうか》(p.99)《そういう訳でハンスは木箱の中で居心地の良い姿勢を見つけると、膝の上に本を乗せて読み始めた。外はあいかわらず、海も空も嵐のまっただ中だ。》(p.115)《「船の甲板でお話を聞くのは、とくべつ気持ちが良いものだから」》(p.184)
  7. どこかにいってしまったものたち|クラフト・エヴィング商會筑摩書房|2400円|159頁|刊1997年06月25日 夜の機械の、カタログ。かつてクラフト・エヴィング商會が扱ったとされる架空の商品たちの解説やチラシを再現。
  8. 七人の魔法使い|ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/野口絵美・訳/佐竹美保・画|徳間書店|1700円|342頁|刊2003年12月 これは楽しい。この作者らしい性格の悪いキャラが次から次に…。父さんが書くタワゴトを町を支配する魔法使いたちがねらうのはなぜ?
  9. 探偵小説 百器徒然袋 風|京極夏彦講談社NOVELS|1300円|538頁|刊2004年07月 下僕たちが巻き込まれた事件を破壊する探偵榎木津礼二郎のバカが感染る中編3本。榎木津はん、あんた旗本退屈男早乙女主水之介に似てるわ。
  10. モモ〜MY DEAR DOG〜|おーなり由子|新潮社|1000円|頁|刊1997年06月 どんなときもしっぽをふりながらわんわんしてる犬モモ。なにもない空や夕焼けを見てわんわんしてるところがいい。そんなモモも。

以下2つはシリーズもので、それなりに長いつきあいになって思い入れができてしまったので付記しときます。

  1. スカーレット・ウィザード(全6冊) (1)無茶と非常識のバーゲンセール。赤毛の女戦士に海賊は夫になれと脅迫される。 (2)キーワードは夫婦の愛。重役たちと暗闘中のジャスミンと誰もが軽んじてるケリー夫婦は遭難した船の探索に自ら乗り出す。 (3)気障なアレンジャー。キングとは旧知のようだが。ジャスミン出産のお祝いを買いに出かけたキングは…。 (4)黒ゴジラのお仕置きはとことん続く。援護する赤ゴジラ。その後しみじみの怪獣たちに大事件。赤大爆発。 (5)赤ちゃん救出作戦は銀河を巻き込むバカげてスケールの大きなものに。そしてせつないエンディングが。 (外伝)天使が降りた夜 外伝と言いつつ本編の続き。スカと天使をつなぐ橋。女王が死んだ後のキング。この後の「暁の天使たち」シリーズも読んだので(そっちはデルフィニアの続編でもある)、本当に長い付き合いでした。
  2. ベルガリアード物語(全5冊)|デイヴィッド・エディングス|早川書房・ハヤカワ文庫 (1)予言の守護者 けっこういい。農場のガリオン少年は神話的戦争に巻き込まれる。物語としてけっこう完璧。細部にいたるまでよく練られている。 (2)蛇神の女王 トルネドラではセ・ネドラ王女登場。それからニーサの蛇女王。物語の本格始動はまだまだという感じか? (3)竜神の高僧 亡霊の国。ベルガラス本拠「谷」。ウルゴの地下の国。敵の中心クトル・マーゴス。 (4)魔術師の城塞 崩壊するラク・クトルからの脱出。なんとかリヴァにたどり着いたらとんでもないことに。すべての読者にはわかっていたわけだけど。 (5)勝負の終り クトル神との直接対決に赴くガリオン。援護のため軍を率い進軍するセ・ネドラ。

「ギリシア神話小事典」バーナード・エヴスリン

神々や英雄たちが息づきはじめる。項目数は多くない小さな事典なのに知りたいことはだいたいわかってしまう、それも生き生きと。残念ながら出版社自体がなくなりました。古書店で発見したら即買いです。


◆ 神話が 自己主張をはじめる ◆

さて
名人が語り
神話は
自己主張をはじめる

小さな書物に
ただ羅列された名は
いつか
生きた人のかたちをとった

身近な記述
あるいは詩
源泉のドラマ
喜びと哀しみ

あなたが出会った
あの日の英雄
失われたものは
美へと化す

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これは、読んで楽しい事典です。
簡単な記述なのにふくよかな物語性。
エヴスリンはうまいです。
物語るのがとても上手な人なのでしょう。

この小型の事典を読むと、それまで、名前とエピソードだけだったキャラクタに命が吹き込まれます。
ふつう、事典を読んでそんな体験をすることはめったにありませんが、なまじのギリシア神話の本より生き生きと描かれているのです。
神話が息づいてくるのです。

ただ、前もって神話の概略くらいは知っておいた方がよいでしょう。それにはブルフィンチの「ギリシャローマ神話」(岩波文庫)あたりを読んどくのがよさそうです。

文庫でお手軽、分厚くもなく、行間も狭いわけでもなく、とても読みやすい。
項目数も多くはないのに気になる事項はだいたい載っています。
情報量じたいはさほど多くもないのに、調べたいことはだいたいわかる、絶妙の項目選択がなされています。

地味なテーマ、かつ盛衰の激しい文庫本の中で、ずーと出版しつづけられていたのですから、ぼくと同様、お気に入りの人も多かったのでしょう。
どこかで宮崎駿さんの愛読書とも聞き共感を覚えたことがあります。ナウシカという名前はギリシア神話の登場人物からでしょうが、そうするとたぶん、この本を読んで決めたのかも。この本以外では、ナウシカはわりと地味っぽい扱いですから。
ちなみに、百科事典系でナウシカという項目があるのを見つけられたのは、今のところ「マイペディア」という一巻本の百科事典だけです。どーでもいいですけど。

・・・社会思想社がなくなったので、手に入らなくなりました。
見つけたら買っておいて損はないです。ホンマ、ぜひ。

最近(2006年)、原書房から『ギリシャ神話物語事典』として図版多数挿入の上単行本として出版されました。中身はいっしょのようです。
サイズが大きくなったのは残念ですが、内容的にはますます理想に近づきました。
ということで、もったいないなとは思いつつ買ってしまいました。

現代教養文庫から出ていた「ギリシア神話小事典」とほぼ同様の中身です。
そちらは座右の書です。

この原書房版では図版等が多く入りより理想に近づきました。
ただしサイズが大きくなって手軽さがなくなったのは残念ですが。

ともあれ、もったいないなとは思いつつ買ってしまいました。