よはくのてちょう

手帖の余白に書くようなことを

十津川行

ずいぶん昔の話なのだけど。
ボクは長いことバス停にたたずんでいた。
ここからそのバスが出るということになっていた。
奈良の五條だった。
朝、家(大阪)を出て、これから十津川まで行くのだった。
まだ朝の早い時間帯だ。
時刻表に載っている時間が来てもバスは来ない。
次のバスの予定が来てもバスは来ない。
一日に何本もあるわけでもない。
来ないのはおかしい。
場所を間違えたのかもしれない。
通りがかった人に聞いてみた。
そのおじさんは苦笑いした。
「ああ・・・ここでええんやけどな。書いてる通りには来ん」
はあ?
「次のがいつ来るかはようわからん」
えーと。
「まあ、てきとうやな」
ガクッ。

のんきな時代でした?

時間がこんなにあったのなら、五條も風情のある町。
見物がてらぶらぶら歩いてみたかった。
でも、いつ来るかわからないんではバス停から離れられない。

そして、ボクはひたすらたたずんでいた。

ようやくバスが来たのは、すでにあきらめかけていた夕方近く。
何時間待っていただろう。
ボクの人生でもっとも苦しかった記憶のひとつだ。
しかもそこから長時間かかる路線なのだ。

もう暗くなるのに大丈夫?
車の転落事故が多い道だという。
以前質問したとき。
「ああ、もう大丈夫やで。以前はたしかによう落ちとったけどな。最近では年にいっぺんくらいしか落ちん」
うっ!!

ともあれ、えんえん揺られて。
ようやく十津川に着いた。
まっくらや。
なんも見えへん。
宿がどこにあるかもわからへん。

目が慣れてきたらおぼろげに道が。
ちょっくらあっちに歩いてみるか。
ふらふら行ってみた。
小さな土地のふくらみの先でふと空を見上げた。

星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星星。
なんじゃこりゃー!!
星ばっかりやー。
こんなにたくさん星があるなんて。
はじめて知った。

しばらくぼーっとしてた。









あかんあかん、こっち行ってもようわからんわ。
なんもなさそうや。
もう一回バス停に戻った。
公衆電話があったので(ケータイなんて影も形もない時代)ユースホステルにかけてみた。
そしたらすぐそばの建物からベルの音。
あれ?
切ってみた。
聞こえなくなった。
あー、ここかしら?

すごく遅い到着だったけど。
ユースホステルの人には親切にしてもらった。
きょうはなんにもできなかったけど。
あした行けそうな場所をいろいろ教えてもらった。

野猿(やえん)にも乗ってみた。
谷瀬の吊り橋(たにぜのつりばし)も渡ってみた。
ちょっと散策してみた。
総じて楽しかった。
いい思い出ばかりになった。
最初のバス待ちはキツかったけど。

そんな十津川や五條がたいへんなことに。
遅ればせながら、とっても心配しています。
皆さんご無事でしょうか。