よはくのてちょう

手帖の余白に書くようなことを

夢で死んだら

夢の中で死ぬことはできないと聞いたことがある。
でもこれまでに3度夢で死んだ。

一度は高いところから落ちて。死ぬ直前、夢で死ぬことあるんやと思った。
一度は背後からナイフで刺されて。
もう一度は・・・忘れてしまった。

いずれも死んだ瞬間に目が醒めた。
その意味ではやはり死ねないのかもしれない。
どうやら死後の世界には行けないらしい。

いや、そんなこともないか。
死後の世界に行ったことはあったのだった。
死んだシチュエーションはなく、いきなり死後だった。

夜だった。
おそらく永遠に明けない夜で、世界じたいが闇なのだった。
しずかな雨が降っていた。
どうやら深い森を縫う径の途上にぼくはいた。
闇を吸って生きている木々。
この時点でここが死後だとは気づいていた。

歩かなければならないのだがなんだかからだが重かった。
そしてひたすら寒かった。
それでも歩くのだ。
ライターで爪を燃やしその灯りでかすかに照らしながら。
ホンマに爪に火を灯してやがると思いながら。

この長い道程は現実のぼくに影響をすこし傷を残すほどだった。
少しくらいしんどいことがあってもアレよりはマシだなと思えるていどに。
とにかくひたすら長くて辛かった。

やがて大きな室のようなところに出た。
ここなら雨も防げるとホッとした。
中ほどに行くと床でなにやら白いものがたくさん蠢いているのに気付いた。
それは、人間たちだった。
死者たちだ。

「どうやらオレもこの仲間入りか」
そうつぶやいて腰を下ろす。
たばこを取り出して火をつける。
ぼくは高校生の頃からすっているので、それ以後に見た夢なのだろう。
「ふぅ」と息をつく。

そばにいた少女が「あたしたち死んだの?」と聞いてきた。
「そうみたいやね」
不安そうにすがりついてくるので抱きかかえぼくらはじっとしていた。

どうやら室の先にまだ道は続いているようなのだが行くべきかどうか思案している。

というあたりで目が醒めたのだと思う。
夢を見た直後のメモにはそこまでしか書かれていないので。