よはくのてちょう

手帖の余白に書くようなことを

氷の館で生きる男

南極で、氷の洋館に住む男がいました。



孤独を愛し、悠然と暮らしているが、年に一度くらい何らかの病を抱いている子どもたちを招待し、氷の世界での暮らしを体験させている。

それはそれは寒くて過酷なのだが、楽しいものでもあった。



近所で同じように氷の家に住む一家のところに歩いていったり…近所と言っても数キロ離れているしその途中には氷が割れて大河になっているところもあるし、子どもたちにとってはけっこうな冒険だった。



数十年後、その男の存在を知った記者が、出そうとしている本の一章にしようと思い、かつてそこに滞在したことのある子どもたち(今は大人になっているし、病気が悪化して亡くなっている者も多いのだが)に、その館で体験したことを書かせた。



それを読んだ男は感動し、そろそろ老齢で氷の世界での生活も苦しくなってきたので都会に戻ろうかと考えはじめる。