クールにいこう(1)
(1)森博嗣さんのミステリの魅力とは?
森博嗣さんの魅力はなんでしょう。
ミステリとしておそろしくすばらしいかといえば、そうでもないでしょう。水準以上だとは思いますが。
物語性があるとかストーリーがすばらしいとか、そういうこともないでしょう。
文章がすばらしいかといえば、むしろたどたどしい。もっとも、それが魅力にもなってはいるのですが。
さまざまな不備にもかかわらず、現在もっとも好きな作家の一人なのです。不思議なことです。
やはり、いちばんの魅力は登場人物たちのクールなもの言いではないでしょうか。地の文そのものもクールですね。
最近よくあるタイプ、キャラクタ優先型のミステリなのに違いはないのですが、そこらが他のキャラクタ小説とは一線を画する部分でしょう。
登場人物たちの吐く意見。クールな視点から偏見や先入観念をはずして語られる考え方。そこでカタルシスを得られるのです。
作者の意見が登場人物とまったく同じだろうなどとは考えませんが、アプローチのかたちはおそらく同じでしょう。養老孟さんあたりと似たところもあると思います。
そう、森博嗣さんの小説は、発想法そのものを見る書、哲学の書でもあるのです。人によっては人生が変わる書物ですらあると思います。